まず始めに某身体運動研究者が絶賛しているように、その意味では希有な存在である事は間違い無いと思う。しかし、その技術が100%結果に反映されているかと言う考える時、いつも疑問が頭をよぎる。
100の技術力を85結果に反映させているのが通常の一流選手なら、120の技術力を90結果に反映させているのがイチロー。打撃に関してはそういうイメージだ。見ている方はその120に魅了されるが、それが必ずしも結果(打球)と=にならない分、未だ賛否両論が多い。
余談だが、イチローのプレーで一番好きなのが、フェンス際で補給した後、体をクッションにしてフェンスの衝撃をかわす所。体をグニャグニャのバラバラにしながら、なおかつ全身で統括的にバランスを取っている。交通事故に会っても最小限のケガで切り抜ける事が出来そうだ。おそらくスローモーションのように感じているに違いない。
さて、この動画なのだが
〜〜〜以下、ウェートシフトタイプの技術論〜〜〜
要約すると、胸を投手に見せないようなイメージでゴルフのような素振りをしていると言う話だ。
胸を投手に見せないと言うのは要するに開かないと言う事で、昔から言われて来た事だが、多くの人が指摘するように最終的には開かないと打てない。つまり胸を投手方向に見せないと打てない。だから胸を投手方向に見せないと言う話には「出来るだけ長い時間」と言う補足が必要になる。もちろん、そんな事はイチロー自身も100も承知のはず。
ここで大切な事は「じゃあ、最終的に胸が投手方向に向いた時、バットはどうなっているのが正しいのか」と言う事。
答えは、グリップに対してヘッドが後方に残り、バットの腹が投手から見えない状態になっているのが正しい。つまり「胸を見せない」の後は「バットの腹を見せない」と言う二段構えが必要になるのだ。落合なんかがその典型だろう。あれだけ開いても打てたのはヘッドが残っていたからだ。
インコースを打つ時にその違いは顕著になる。インコースを打つ時にはより体を回さなければいけない事は誰もが言う事だが、胸が投手に向いた時にはまだヘッドが残っている事が大切になる。そこから、グリップを(体の回転を利用して)左打者であれば、一塁ベンチ方向に引き抜きながら、ヘッドを体に沿わせるようにして、インコースのミートポイントまで持って来なければならない。
胸が投手方向に向いた時に、既にバットの腹が投手から見えているようなスイングでは、インコースは打てないのだ。(ウェートシフトタイプの場合)
ゴルフの素振りでは、終止肩が閉じた状態に保たれるが、その結果「胸を投手方向に見せて、ヘッドを後方に残した状態」を作る事が出来ない。
だから、イチローのバッティングを見ていると、確かに肩が開くのは遅く、胸が投手方向に中々向いて行かないが、胸が投手方向に向くと同時にバットの腹も投手から見えるような出方をしてしまう。つまり一段構えなのだ。だから、インコースの速球には詰まらされる事が多い。
野村監督が日本シリーズで徹底的なインコース攻めをしたのは、そのあたりを見抜いての事だと思う。また、このあたりがイチローにとって最大の過大になるのでは無いかと思う。じゃあどうすれば良いのかと言われても、それは非常に難しい。
そもそも、今回の内容を見れば明らかなように、ウェートシフトタイプと言うのはインコース高めを打つ事が非常に難しい。そのあたりはメカニズム上、トップハンドトルクの方が得意だ。ボンズ、ジーター、城島。皆、インハイが好きだ。しかし、ウェートシフトにも大きな長所が有って、それは打球に細工を加えるのはウェートシフトタイプの方が遥かに容易だ。
良く、アメリカでは「イチローがホームラン一辺倒になっていたメジャーの野球に、伝統的な野球本来の面白さを思い出させてくれた」と言われているようだが、それは打撃のメカニズムにも関係がある事だろうと思う。
今の好打者像は「ペドロマルティネスの決め球をジャストミート出来るか」と言うイメージに違い無い。ジャストミートさえすれば打球の行方はどこだって良い。そんな感じだ。
だが、昔の野球の好打者像は「狙ってショートとレフトの間に打球を落とす」と言うイメージに近い気がする。これには勿論、投手のレベルアップが背景に有るだろう。その結果、野球観が変わって、打者のスイングも変わって来た。
また、ついでにWBCの話題だが、懸念していた1死1塁からの送りバントを実行してしまったようだ。
キューバのカストロまで批判している。
日本の過剰な送りバントを見ると、不謹慎ながら兵隊の自決を思い出してしまう。アメリカやローロッパの兵隊には捕虜になってでも相手の脚を引っ張ってやろうと言うしたたかさが感じられるが、日本人の場合それ以上に精神的な形式美を重んじる傾向が有るように思う。善悪は別として、相手にとってはどちらが助かるかは明確だ。韓国の選手はあのシーン、送りバントで内心喜んだに違いない。
今大会はどこが来るんだろうか。ベネズエラやキューバ。次にプエルトリコ、メキシコ、韓国。この辺が強敵になりそうな気がする。
韓国の打者に対しては、ここ数年の傾向として2,3人の飛び抜けた存在がいるが、その他の平均レベルでは日本が勝っているだろうと思う。既に書いて来たように、(技術はアメリカを参考にすると言うだけあって)韓国の方がトップハンドトルクは普及しているのだが。代打で川崎とか阿部が出てくるような層の厚さは韓国には無いように思える。
日本は、すり足打法or一本脚打法の二者択一の状態から、優れた変化球対策として自然落下打法を生み出した。この事が平均的な「ヒットを打つ能力」を高めた。しかし、韓国は自然落下打法をスルーしてトップハンドトルクの時代に突入しまったため、どうにも大味な感は否めない。勿論、それは台湾も同じ。理論抜きにナチュラルステップに到達する事も容易では無いだろうし。
前大会で活躍したキム・ドンジュは、既に自分が獲得した兵役免除のチャンスを他の選手に与える意味も有って辞退したと言う。微妙な決断である。
ベネズエラにキューバ、ここに日本が絡めるかどうかと予想しておく。全然自信は無いが。打線では今回はベネズエラだろうか。そこにKロッドと言うクローザーの存在を考えると強敵だろう。
結びに、イチローのバッティングの特徴を2点ほど挙げておきたい。
まず、バットの握り方が素晴らしい。だから、両肘が非常に鋭く切れ込んで来る。その結果、バットがまるで刀のように出て来る点。肘から先〜バットまでが一本の刀になったように出て来る。バットを刀のように見せると言う点がイチローの特徴だ。反対に青木なんかはグリップがルーズだから丸太ん棒のようにバットが出て来る。
次に股関節。特に左股関節の動き。他の選手に比べて、鋭く内向きに切れ込んで来る、垂直面回転の要素が強い。これは下半身の回転半径を小さくする事に貢献しているはずだ。(左足の微妙なラインに注目)