ところで、骨盤前傾とは良く言われる物の、言葉の定義はもう一つハッキリしない気がする。(ここで明確に定義しよう等と言うつもりは無い。)
例えば、図のような脊柱のS字カーブが効いた、いわゆる骨盤前傾型の体型の場合で考えてみる。

このような体型の場合、(骨盤後傾型の体型と比べると)自然な立位で骨盤が前傾している事になるが、当人からすれば、それが自然な訳であり、正確に解剖学的に言うと、自然な立位(図の状態)では前傾も後傾もしていないと言えるのでは無いか。
もともと骨盤のどこに縦軸が有って、その軸が垂直線より前傾していれば骨盤前傾、後傾していれば骨盤後傾と言う取り決めが有ると言う話も聞かない。

立位で自然な状態をニュートラルとして、それより前に傾けば前傾、後ろに傾けば後傾と言うのであれば、骨盤前傾型の体型、後傾型の体型と言うのも本来おかしな話である気はする。
他人との比較による相対性と、もう一つは靭帯や腱、筋肉の硬化等によって、その人が本来有るべき状況からどちらかにズレている事を前傾している、後傾していると言うと面もあるのだが。
因に、敢えて触れて来なかったが、整体等の世界では前傾も後傾と同じく、骨格の歪みであるとして好ましく無い矯正するべき状態として話題になる事が多いが、矯正するべき骨盤前傾と言うものに対して、正直もうひとつイメージが湧きにくい事と、スポーツ選手の多くが骨盤前傾の特徴を求めきれない事の方が問題になっている現実から、この事についてはあまり触れないでおきたい。
骨盤前傾型の体型の利点を幾つか挙げてみると、まずは骨盤が前傾する事によってハムストリングスにテンションがかかるので、ハムストリングスによる股関節伸展の働きを利用しやすい。

膝の伸展よりスイング半径が大きく、関係する筋群の出力が高い股関節伸展がスプリント能力の決め手であり、一流スプリンターがむしろ膝の伸展が小さい事は良く知られている。
股関節伸展は脚を後ろにスイングする動作なので、その反作用で前向きの推進力を得やすいが、膝の伸展は体を上に押し上げるだけで、前への推進力を得にくい動作である事も良く知られている。
そしてもう一つの利点が脊柱のS字カーブが効く事で肩甲骨が胸椎の上に被さり、腕を保持するのに不必要な筋肉の働きを利用する必要が無いので、腕を中心として上半身が柔軟に使いやすい。
★ 実践編 ★ では、こういった骨盤の前傾した状態を打撃の構えの中で求めるための実践的なポイントについて挙げて行く事にする。
もちろん日常的なトレーニングにおいて、そういった肉付き、骨格のバランスを求める事は大前提だが、ここではそれは置いておいて、あくまでも打撃の中での技術論としての視点から考えたい。
まず大前提として、
骨盤前傾そのものは意識してはいけない。 つまり、プリケツをやってはいけない。
もちろん、骨盤が前傾している状態と言うのは認識することが出来るが、それは股関節を割った事によって構造的に骨盤が前傾したためであり、意識的に骨盤を前傾させようとしてしまうと、人間は必ず腰背部の筋肉で骨盤を前傾させてしまう。こうなると背筋は緊張するし、脊柱が全体的に反ってしまい、胸椎が後湾して腰椎が前湾すると言う理想的な状態は作れない。 簡単に言うと、下図で赤い点(股関節の所)を支点にして、体幹部をそのまま前傾させる事が求めたい姿勢である。

簡単に言うと股関節の屈曲なのだが、ただ屈曲するのでは無く、股関節を割る事によって骨盤の前傾はさらに強調される。

股関節の割りによって骨盤が前傾すると、腰椎の前湾と腰椎の後湾が強調されて、脊柱のS字カーブが効いてくる。(シェイ・ヒレンブランド デレック・ジーター)

つまり、簡単に言うと、
股関節を割る事により、骨盤が前傾し、胸椎が後湾する状態を『認識』出来れば良いと言う事になる。この感覚は股割りストレッチで体得して頂きたい。
大切な点として、その状態を認識すると言うのと、意識して作ると言うのは別物であると言う事が言える。
理想的な状態としての「股関節を割る事により、骨盤が前傾し、胸椎が後湾する状態を『認識』出来れば良い」と言うこの状態の場合、
意識的な動作は股関節の割りであるが、骨盤の前傾と胸椎の後湾はその結果に過ぎない。これを
「股関節の割り」「骨盤の前傾」「胸椎の後湾」と別々に意識してやってしまうと、全く別の動作になり、不必要な筋肉の働きも必要となってしまう。 そして、もう一つ重要な点として、これらの状態を作る事が出来た時の立ち方(体重の支え方と、その時の脚の感覚)が重要になる。(「股関節立ち」と表現して来た事。)
股関節立ちの感覚については、この記事(
http://tophand.exblog.jp/12074772/)で書いたが、簡単に言うと、脚の筋肉(特に太腿前面)に無駄な力みが無く、骨で体重を支えている感触、なおかつ触ってみると太腿裏側の下部内則がキュッとしまっている状態を意味する。
まとめると、以下のようになる。
★ まず股関節を割る事。
★ 股関節の割りにより骨盤を含む脊柱軸が前傾する状態を「認識出来る」こと。
★ 股関節を割る事によって自然に胸椎が後湾する状態を「認識出来る」こと。
★ 後湾した胸椎の上に肩甲骨が被さって来ること。
★ その姿勢が出来た上で股関節立ちの感覚を求めること。
以上の点がポイントになるが、もっと簡単に言うと、
『股関節を割って、胸椎が後湾した状態を作れば股関節立ちの感覚が得られる。』この事を目安にすれば骨盤の前傾した構えを作る事が出来る。
と、最後の仕上として、もうひとつ忘れてはいけない問題が有る。
下の写真を見て頂きたい。イチローとジミー・ロリンズだが、二人とも体幹を前傾させて、骨盤が通常の立位に比べると前傾しているにも関わらず、胸椎の後湾がほとんど見られない。イチローの場合はむしろ反対に前湾している。


これは何故かと言うと、守備姿勢やリード姿勢では顔が前に向くためだ。骨盤が前傾して、体幹部が前傾(前屈)しても、首を垂直軸に合わせて立ててしまうと、胸椎は前湾して、脊柱のS字カーブが崩れてしまう。
因に前掲のジーターとヒレンブランドの守備写真で、前を向いても、脊柱のS字カーブが崩れていないのは股関節を割る事によって骨盤前傾がさらに強調されているためだが、打撃でここまで股関節を割る事はジェフ・バグウェルでも無い限りむつかしいだろう。
だから打撃でも、せっかく股関節を割って骨盤を前傾させても、首を体幹部の前傾軸に合わせ無いで、垂直軸に立ててしまうと、脊柱のS字カーブが崩れ、腰椎が後湾しやすいので結果的に骨盤の前傾が不十分になる。

だから、下図のように、首を体幹の前傾軸の合わせる必要が有る。これで骨盤前傾の構えは画竜点睛となるだろう。

例えば、Aロッドはこれが出来ている。


ただし、この技術で気をつけなければならないのは、首を傾ける事によって投球を下から見上げるじょうな角度を作ってしまわない事だ。これを防ぐためには下図の体幹部操作を利用して、肩の傾斜から自然にアゴを引いた状態(アゴだけをことさらに引くのでは無い。)を作ってやる必要が有る。
それでは最後にもう一度箇条書きに。
★ まず股関節を割る事。
★ 股関節の割りにより骨盤を含む脊柱軸が前傾する状態を「認識出来る」こと。
★ 股関節を割る事によって自然に胸椎が後湾する状態を「認識出来る」こと。
★ 後湾した胸椎の上に肩甲骨が被さって来ること。
★ その姿勢が出来た上で股関節立ちの感覚を求めること。
★ 首の角度を体幹部の前傾軸に合わせること。
『股関節を割って、胸椎が後湾した状態を作れば股関節立ちの感覚が得られる。最後に仕上として首の角度を脊柱軸の前傾角度に合わせればパーフェクト。』